サロンの開催状況 9月3日(第22回)

本日の話題:地区防災計画とマンション防災

説明・意見交換

神戸市中央区港島地区(ポートアイランド)の地区防災計画について、住民とともに取り組んでいる澤田雅浩准教授を講師にお招きし、集合住宅での在宅避難、住民同士の助け合い、地区防災計画づくりの取組を、ポートアイランド(港島地区)の7年間の実践の経緯についてご紹介いただき、意見交換しました。

【レクチャーの概要】

  • 問題設定: 災害時、建物が使用可能なら多くの住民は自宅に残る。しかし在宅避難者は避難所統計に表れにくく、マンションでは停電・断水・エレベーター停止・排水管損傷が生活継続を左右する。
  • 港島地区の条件:約7,000戸の集合住宅が立地する人工島で、島外への経路が限られ、高層居住、高齢化、旧耐震建物等の条件が重なる、1995年の阪神・淡路大試案際の経験と、2018年の大阪府北部地震・台風21号の高潮の経験が、計画策定の根拠となった。
  • 計画形成: 2019年に港島地区防災対策委員会が発足し、全戸アンケートを実施。2020年の計画で「自宅に被害がなければ原則自宅避難」と、10日分の食料・飲料水、非常用トイレを重点化した。2021年には神戸市地域防災計画に規定された。
  • 地区と棟の二階建て: 地区全体で方針、給水拠点、要配慮者把握等の共通事項を定め、各棟ではマンション防災カルテと「まねっこ防災」を用いて、設備・備蓄・体制の差に即して実装する。単独棟の自助に閉じず、管理組合間で知識と資源を融通する構造である。
  • 検証: 同種の全戸調査を2019年と2023年に行い、回収率は19.4%から30.4%、非常用トイレの備えは14.0%から39.1%へ上昇した。一方、家具転倒防止は37.1%から34.7%へ低下し、居住者の入替り、震災経験の継承、費用・施工負担が課題として示された。

「逃げなくていい、ではなく、逃げなくても住み続けられるように備える」。行政の防災は全部を扱うため濃淡が見えにくいが、地区では「一点突破でも、だいぶ避難環境が変わる」。港島では、その一点がまず非常用トイレだった。

2023年調査では、非常用トイレの備えが分譲43.2%、UR賃貸26.1%、市営住宅17.7%であり、食料・飲料水でも同様の差が確認された。講師は、建物性能そのものだけでなく、管理組合等を通じて情報と働きかけが届く「回路」の有無が差を生むと説明した。したがって平均値の改善だけでなく、住宅類型・居住期間・組織加入状況別に未到達層を把握する必要がある。

【意見交換から・・・】

  • 「地域によって、備える順番が違うのでは」 震災経験を語った参加者から「みんな、まずトイレ、水、高いところからの水くみと言っていた」との話が出た。講師は、津波から上へ逃げる地域とマンションでは優先順位が違うと応じ、「行政は全部やらなきゃいけないので濃淡が見えない。地区でやる時は濃淡をつける」と述べた。
  • 「外国人の方に、すんなり伝わっているのか」 参加者の問いに、講師は「まだそこまで実は行ってないんです」と率直に答えた。訓練では分かりやすい日本語を使っているが、今後は当事者を呼び、「ルールがこうだから、こうしてくれ」ではなく、生活の仕方を踏まえて「どう折り合いをつけるか」を一緒に考えたいという。
  • 自治会だけでなく、管理組合の横のつながりをどうつくるか」 港島では自治会のないマンションもあるため、管理組合ごとに防災担当者を出してもらい、月1回集まる。講師は管理組合を「運命共同体」と表現し、防災体制が資産価値や購入時の安心にも結びつくとの実例を紹介した。一方で「管理組合だけだと、やることが山積みで先送りになる」。隣のマンションの取組を「うちはこれをやったから、まねしましょう」と持ち寄る意味が語られた。
  • 「小さいところからやって、最後に全体をつなぐ」 参加者から、六甲アイランドやHAT神戸では自治会、防災福祉コミュニティ、ふれあいのまちづくり協議会、管理組合の組合せが地域ごとに違うとの経験が出された。講師も、配管やエレベーターの運用まで棟ごとに違うため、全体で一つのマニュアルにするのは難しく、同じ議論をしながら各棟が自分の仕組みに取り込む形になったと振り返った。
  • 「備えは増えたが、家具の転倒防止だけ減っている」 この数字をめぐって、会場から「家具がなくなっているのでは」「作り付けが増えた」「家族が小さくなり、家具のない部屋で寝られるのでは」と声が上がった。講師は可能性を認めつつ、震災経験のない居住者が増え、最近は転倒防止をあまり訴えてこなかった影響も考えられるとした。結論を急がず、数字の背景を会場で考えた場面であった。
  • 非常用トイレは「その後、どこへ捨てるのか」 参加者の具体的な問いに、講師は「どのタイミングで、どこに集めて回収してもらうか」を環境局と相談し始めたところだと説明した。各戸で一時保管しつつ、回収場所を設ける案がある。他方、浴槽の水を流せば、壊れた縦管から漏れて後の修理が大変になる。この二つを合わせて住民に説明しているという。
  • 安否確認は発災直後だけではない。在宅避難で深刻な問題が出るのは2日目、3日目以降ではないかとの説明があり、各管理組合で「3日目の安否確認」を検討しているという。島外から通う介護職員が来られない場合、まず島内住民が声をかけ、難しいケースを福祉や介護の専門職へつなぐ「二段構え」が話された。
  • 建物が倒れていなくても「暮らせない」 講師は熊本・千葉の事例に触れ、マンションにこもる人は行政から「見えない避難者」になりやすいと指摘した。地下の電気室や受電盤が水没すれば、上階では水もエレベーターも止まる。港島でも、直圧で水が届く階を中継点にできないかという案があるが、「その水道料金をどうするか」という運用上の話まで残っている。
  • 最後に、仮設住宅とコミュニティの話へ 参加者から、遠い仮設住宅へ移ってコミュニティが崩れた経験が語られ、被災地内に建てられないかとの質問があった。講師は、土地が空いて見えても、復興事業で次に使う土地であり、所有権も分かれているため、2~3年占用すると事業が動かなくなると説明した。学校や公園の長期使用、子どもへの返却時期も含め、単純には決められない問題とされた。

 この日の話は、「正しい防災計画」を完成させるというより、まず地域で困りそうなことに濃淡をつけ、できるところから始め、棟ごとの差や未解決の問題を持ち寄りながら直していく、という進め方を示していた。港島で非常用トイレの備えが14.0%から39.1%へ伸びたことも、重点を一つ決め、何年も言い続け、5年後にもう一度調べた結果として紹介された。

 同時に、UR・市営住宅、外国人住民、要配慮者、在宅避難者の把握、汚物回収、給水の費用負担など、まだ「手がついていない」「今、相談を始めている」課題も多い。地区防災計画は、出来上がった文書よりも、こうした未解決事項を話し続けられる場と体制をどう残すかに意味がある。

参加者コメント

(以下、原文のまま)

気づき:

・経験から出された「非常トイレ」はわかりやすく受け入れやすかった

・トイレの重要性、マンションでは自宅避難(一戸建てに関してはいろいろあり)

・マンション(港島)のアンケートに基づいた、机上でないお話がありがたかった

・防災、地域コミュニティの重要性

・概ね理解はできていましたが、とても素晴らしい取り組みでうらやましい!感じです

・阪神・淡路大震災の際(テレビのキャスターをしていましたが)当時も今もコミュニティが大切

・マンションではやはりまずはコミュニティが重要。少しでも顔見知りを増やすこと

・我々の会社も人工島にあり、前回の震災では唯一の橋が崩れたと聞きました。島内で暮らす人は居ないと想像しておりますが、働く方たちが勤務時間中に被災した場合には社内退避を数日間する必要が出てくるかもしれません。今日のお話を社内共有し、まずはトイレの備蓄について早急に取り組んでいこうと思いました

・忘れないこと

・マンションでの防災の大切さがよくわかりました。地域の自治会でも話題提供したいと思います

意見・感想など:

・うちの会員はひとまかせが多いので、どこまで通用するかが不透明

・私は神戸に関する知識があまりないのですが、参加された方の経験談を聞くことができ、大変興味深かったです。逃げないと決めている地区があることに驚きました。神戸市が非常用のトイレを購入して港島に備蓄しているという方式がとってもよいと感じました

・西区のオールドタウンではどうなるのだろうか。空き家も3~4割くらいあり

・防災は地域と地域、人と人によって意識が違います。どこで災害に遭うかわからない前提、場所も違う前提で備えることが大切

・管理組合、自治会からもれている人への対応。新しい組織というか連絡体制の必要性