サロンの開催状況 8月6日(第5回特別サロン)

   講師:高田和紀兵庫県立大学准教授 主催 : 神戸まちづくり研究所&兵庫県立大学

レクチャー・意見交換 「妖怪から学ぶエコロジカルなまちづくり」

【レクチャー概要メモ】

1 妖怪を考える基本視点

 自然と社会を別々に捉えるのではなく、両者が相互に影響し合う「風土」として地域を読むことが重要。その際、地域に伝わる妖怪や神話、伝承は、自然科学だけでは捉えにくい地域固有の経験や感覚を読み解く手掛かりになり得る。

〇「風土」は自然条件だけでなく、人々の暮らし、文化、価値観まで含めた自然と社会の一体的な有り様を指す。

〇妖怪伝承は、地域の生態系や危険箇所、自然への畏れ、人々の行動規範などを物語として蓄積してきた可能性がある。

〇合理的・科学的な説明だけでなく、物語を通じた理解や身体感覚も、地域環境を理解する一つの経路として捉える。

2 妖怪伝承から読み取れる地域環境

 タヌキやカッパ等を例に、妖怪の姿や呼称には地域の生態系や身近な生き物が反映されることが紹介された。カッパは全国一様ではなく、地域によって「ガタロウ」「ヒョウスベ」「レンコ」など呼び名や姿が異なり、カメ、カワウソ、サル、オオサンショウウオ等、その土地で身近な生物との関係が想定されるという。

〇佐渡島では、タヌキの多い生態環境と「タヌキに化かされた」という経験談が結びついて語られる。

〇淡路・沼島の「ムシジョロウ」など、生物の姿や由来を地域の物語で説明する例もあり、科学的説明とは別の記憶回路になっている。

〇 妖怪は完全な空想として切り離されるのではなく、実際の風景、祠、池、道、生物など現実の環境の延長上に存在する物語として理解できる。

3 コモンズの維持と「祟り」の働き

 佐渡・加茂湖の「一目入道」の伝承では、約束を守れば魚を得られる一方、約束を破れば災いが起こる。高田准教授は、こうした物語が共同利用資源を守る暗黙のルールやモラルとして機能してきた可能性を指摘した。

〇共有資源(コモンズ)は、一部の人が自己利益を優先すると枯渇し、結果として皆が損をする。持続的な利用には、明文化された制度だけでなく「配慮」や「緊張感」を支える文化的仕掛けも重要である。

〇「木を切ると祟られる」「神聖な場所には手を入れにくい」といった感覚は、現代でも環境への介入をためらわせる力を持ち得る。

〇人と自然を対立的に捉えるだけでなく、佐渡の団三郎狸のように、人と妖怪が共存し助け合う伝承から、エコロジカルなまちづくりへの示唆が得られる。

4 非合理性を排除しないまちづくり

 道路空間の写真を用いた心理実験では、何もない場所、監視カメラ、鳥居、お地蔵、花束等を比較した結果、花束が置かれた場面で迷惑行為を控える傾向が特に強かったことが紹介された。花束から事故死等を想像し、死者とのつながりや畏れを感じることで行動が変わる可能性があるという。

〇人は常に完全に合理的に行動するわけではなく、宗教性、畏怖、死生観、物語、場所の雰囲気などにも影響される。

〇まちづくりでは、こうした感覚を迷信として単純に排除するより、人間の実際の行動特性として認識する必要がある。

〇環境価値を数値だけで説明するのではなく、しめ縄や物語などが環境保全への配慮を生む場合もある。

5 妖怪の捉え方と「場所性」

 妖怪について、小松和彦氏の整理を踏まえ、「出来事・現象としての妖怪」「存在としての妖怪」「造形としての妖怪」という三段階が紹介された。江戸時代以降、妖怪は姿形を与えられ娯楽化し、水木しげる氏によって現代的なキャラクター像が広く定着したという。

〇本来の妖怪は、説明できない出来事や不思議な現象そのものを指す場合も多かった。

〇柳田國男の議論を手掛かりに、妖怪には「山」「海」「道」「家」など特定の場所と結びつく傾向があり、地域のリスクや環境を考える上で「場所性」が重要であるとした。

6 妖怪ワークショップ

 後半は、身近な危険や困りごとを妖怪として表現するワークを実施した。危険箇所や環境上の課題、人間関係上の困りごと等を探し、「どんな妖怪か」「どんな悪さをするか」「襲われないためにどうするか」を考えることで、普段は見過ごしている地域のリスクを可視化する狙いが示された。

〇講師の実践例として、「ビリビリン(落雷)」「大ミミズ(地盤・インフラの危険)」「ナミボウズ(水辺の環境配慮)」等が紹介された。

〇当日の参加者からも、「タスクさん(仕事を増やす)」「誘い魂(駅ホームで注意をそらす)」「井戸姫」「妖怪赤汁」「妖怪水びたし」など、多様な発想が出された。

〇妖怪という媒介を置くことで、直接「危険だからやめなさい」と言うよりも、笑いや物語を伴ってリスクや対応策を共有できる。

7 「遊び」「余白」とコミュニティ

 妖怪を単なる防災・環境啓発の道具としてだけでなく、社会に「遊び」「曖昧さ」「余白」をもたらす存在として位置付けた。細かな禁止事項で人を縛るのではなく、互いに配慮しながら緩やかに共生するための「緩衝材」になり得る。

〇不運や失敗をすべて個人の責任として追及せず、「妖怪のせい」と笑える余地が、人間関係を和らげることもある。

〇自然を大切にし、安全・安心に暮らすことを我慢や犠牲としてではなく、生活の豊かさや幸福感につながる営みとして考えることが重要。

〇合理性だけで白黒をつけず、不思議さやおかしさを地域の営みに取り込む社会の方が豊かではないか、との問題提起があった。

【質疑・意見交換】

〇 「花束」が迷惑行為を抑える理由について、宗教的象徴というより、事故や死者を直接想起させ、死生観や他者とのつながりを感じさせる点が大きいとの説明があった。

〇昔の妖怪は、人間が制御できない「わざわい」を納得・受容する装置でもあったのに対し、現代のワークショップでは比較的ポジティブで、問題を制御・改善する発想が強いのではないかとの参加者意見があり、講師も興味深い変化として受け止めた。

〇海外との比較について、東アジアの精霊的存在や西洋の神・悪魔的存在に触れつつ、日本では多様な妖怪一つ一つに名前と性格を与え、地域差を細かく表現する点が特徴的との説明があった。

 【まとめ】

 妖怪を「怖い昔話」として扱うのではなく、地域の風土、生態系、資源管理、災害・事故リスク、人間関係を読み解く文化的な装置として捉え直した。科学的合理性を基礎にしつつも、それだけでは説明しきれない人間の感覚、畏れ、物語、遊びをまちづくりにどう位置付けるかが主要な論点となった。妖怪ワークショップは、地域を注意深く観察し、リスクや大切にしたいものを発見し、それを共有する実践手法として提示された。講師からは、ワークショップは自由に活用してよいとの案内があり、参加者が考えた妖怪を周囲にも伝えてほしいとの呼びかけで締めくくられた。

                                           <以上、聞き書き・メモ 久戸瀬>


 【参加者考案の妖怪から】

・ドンドコドン:太鼓を鳴らして人を踊らせ、場をにぎやかにする妖怪。騒がしさだけでなく、人を元気にする面も持つ。

・声かけばばあ:誰彼かまわず声をかけて、周囲を元気にする妖怪。地域のコミュニケーションを生み出す「善玉妖怪」。

・おさほうさん:作法や行儀を教えてくれる妖怪。少々うるさいが、人とのつながりを保つ存在でもある。

・井戸姫:井戸の中に住む心優しい姫。井戸を大切にする人には恵みの水を与えるが、粗末にすると力を貸してくれない。

・ポイステン:人目のない場所に現れ、ゴミをこっそり捨てさせ、人をイラつかせる妖怪。施設をきれいに保ち、心に余裕を持つことが対策。

・手ふりじじい「プッチー」:嫌な空気や雰囲気を周囲に広げる妖怪。地域で顔の見える関係をつくり、孤立させないことが予防につながる。

・きゅうちゃん:暑い時に人に取りつき、頭痛や気分不良などを起こす妖怪。熱中症を思わせる存在で、日頃から体調管理が大切。

・黒山姫:山の草木を乱暴に扱ったり、大きな木を切ったりすると怒る山の妖怪。自然を敬い、むやみに傷つけないことが大切。

・欲や怠けの妖怪:欲深さ、怠け、不運、不幸など、人の心の弱さに忍び込む妖怪。人のために喜ばれることをする、自制心を持つことなどが対策。

・あかん:ゴミ捨てなど、街のためにならない行動を繰り返させる妖怪。「あかんことは、あかん」と皆で気づき合うことが退治法。

・かめくじ丸:湿気の多い場所に現れ、気分を重くさせるナメクジのような妖怪。風通しをよくし、湿気をためないことが対策。

・スキマグイ:予定のない「すき間時間」を見つけると、人を誘惑して時間を奪ってしまう妖怪。

・たすくさん:「あれもしよう、これもしよう」と次々に仕事を増やしてくる妖怪。全部抱え込まず、あえて余白を持つことが大切。

・なんだっけな~?:何をしに来たのか、何をしようとしていたのかを忘れさせる妖怪。メモを取る、余裕を持って行動することが対策。

・誘い魂(さそいだま):駅のホームなどに潜み、スマホに夢中の人を魅力的な映像で誘い込む妖怪。歩きスマホをせず、周囲を見ることが大切。

・My Tube:パソコンの中に住み、仕事中でもYouTubeを見続けさせる妖怪。仕事と息抜きの時間をきちんと分けることが対策。

・知らんふり/人まかせ:どの街にも潜み、「誰かがやるだろう」と問題を他人任せにさせる妖怪。誰もが自分事として地域に関わることで退治できる。

・妖怪 お金もち:インターネット空間に現れ、「楽をして大金が手に入る」などと誘惑する妖怪。詐欺や怪しい勧誘を疑い、安易に乗らないことが大切。

・マンション・ルール魔:マンションのルール違反を見張り、注意を促す妖怪。住民同士が声を掛け合い、あいさつをすることが予防につながる。

・ねこぽん:どこにでも現れ、高いところに登る猫の妖怪。大雨の日にはおとなしくなるなど、自然の変化にも敏感。

・青龍寺・奥の院にまつわる妖怪:神聖な場所で軽率な行動をすると、雷鳴などで警告してくる存在。畏れを持って場所に向き合うことを促す。

参加者コメント

・住んでいる場所、路地裏、すきま、全ての空間で妖怪をさがす楽しみをいただけた、と思っています。

・恐いことも、苦しいことも妖怪の存在で少しやわらぐことが良いなぁと思いました。身近な妖怪を考えたいと思います。

・日本人特有の感覚や考え方が面白いなと思いました。自然観が欧米とまったく異なるという部分がおもしろい。

・空想上の「何か」を生み出し、これからの世の中にこそ妖怪を生かしていくのだと思います。

・この昔からの考えを現代の人に伝わればおもしろい。ワークショップもその方法の1つかもしれないと思います。

・日本は昔から災いという「怖い存在」を神話や、昔話や妖怪にして忘れない形で残してきた。これからも語りつづけることの大切さを感じました。

・妖怪というイメージが今回のお話をきいてガラッと変わりました。

・子供さんだけでは無く、大人に向けたお話だったので大変たのしい内容でした。ありがとうございました。

・「面白かったです。合理的なことだけが課題解決の方法ではないのが分かったのは、大きな収穫でした」

・数値に表れないものを考えるとき、妖怪という存在を用いて考えなおすことを考えたりするのは とてもおもしろいなぁと思いました。

・人と共有することが大事だなぁと思いました。(ミームを流行させる。)ありがとうございました。

・良くも悪くも やはり天は見ているぞという人の良心であり自然への畏敬の思いなのかなと思いました。おもしろかったです。まちにいかしたいです。 

・妖怪とまちづくりがどうむすびつくのか とても興味深かったです。

・各地の妖怪伝承の意味を考えると その土地の風土について学ぶことができると知り、楽しかったです。

・日常でも、妖怪のエッセンスを取り入れることで、心に余裕(あそび)をもって、豊かな視点を持ちたいなと思いました。    

・妖怪好きなので、楽しみにしていました。私はまだ子供の時家庭や地域で、お背に誰かがやどるとか早くねないとおばけがでるとか言われて育ちましたしかっぱや雪女の話もききました。人が万能ではない、ということを妖怪の存在が知らせてくれるかも?絵本を子どもたちに読むと喜ばれます。

・説明装置としての妖怪の話は、ふに落ちました。自分の力の及ばないことを、自分で納得するために妖怪は必要なんでしょうね。

・江戸時代にビジュアル化され、水木しげるでキャラクター化したという説も興味深かったです。

・江戸時代の文化と水木しげるの影響が大きいのだと思います。日本で妖怪をつかったまちづくりというのは興味深いですね。

・まちづくりに とても重要な視点で、面白いセミナーでした。 

・ワクワクしながら、拝聴しました。